今回は、大手化学メーカーの知財管理部における「市民開発浸透プロジェクト」のご紹介です。
同部門では、発明者から寄せられる特許出願依頼に対して、管理者が手動で管理番号を採番し、フォルダ作成やメール通知を行う運用が続いていました。しかし、来年度は案件数が約2倍に増加する見込みとなり、従来の手作業中心の体制では現場負担が急激に高まることが懸念されていました。そこで、Power Automate と SharePoint を活用し、知財管理業務における“市民開発”の第一歩として、自動化基盤の構築がスタートしました。
背景
化学メーカーをはじめとする製造業では、研究開発の加速や知財競争の激化により、特許出願関連業務の増加が続いています。発明者の申請スピードに合わせて正確に管理番号を発行し、その後のフォルダ管理・書類整理を滞りなく進めることは、知財部門の重要な役割です。
一方で、各種手続きに関わる作業の多くはルーティンであり、依頼件数の増加がそのまま担当者の負担増に直結します。今回のクライアントでも、法務省から業務改善の提案があったことをきっかけに、現場主導で市民開発を進める機運が高まり、DX推進の土台づくりが求められていました。
課題
個別相談時の課題は以下の通りでした。
- 採番・フォルダ作成・通知のすべてが手動で、作業時間が膨らんでいた
作業の単純性ゆえに負荷が高く、担当者の心理的負担も大きい状態でした。 - 来年度の案件数増加に耐えられる仕組みが存在しなかった
年間件数が約2倍に増える見込みで、現行フローでは確実に処理が追いつかない状況。 - 自動化設計の難易度が高く、技術的リスクも存在した
無限ループ発生の可能性やメール宛先指定ミスなど、適切なアーキテクチャが不可欠でした。
支援内容
本プロジェクトでは、担当者が無理なく運用できる市民開発スタイルを重視しながら、自動化の核となるフローを構築しました。
- SharePointリストを“採番マスタ”として設計
Excelではなく履歴管理に強いSharePointを採用し、情報の一元管理を実現。 - Power Automateにより「項目作成時のみ動作する安全設計」を採用
無限ループを回避し、安定稼働を担保。 - 特許管理番号(KT+西暦+連番)を自動生成するロジックを構築
年度ごとのリスト作成やリセットが不要な、運用負荷の少ない仕組みを採用。 - 採番番号で自動的にSharePointフォルダを作成
フォルダ作成漏れを防止し、作業スピードを向上。 - 発明者・管理者へのメール通知を標準化
メール宛先の指定ミスを防ぐべく、適切なユーザープロパティを選択する設計を実施。 - POCから本番移行までの手順を整備し、市民開発として再現性の高いモデルを提供
今後の展開
今後は、本プロジェクトで構築した基盤をもとに、次の展開が期待されています。
- Power Appsによる申請UIの高度化
- 進捗管理や承認フローの自動化への拡張
- 知財管理部内での市民開発文化の浸透
- 横展開による他部署の業務改善
- 企業全体のDX標準プロセスとしての発展
今回のフローは「まず自動化を体験し、手で動かせる仕組みを持つ」点に価値があり、市民開発の第一歩として大きな意義を持ちます。
おわりに
市民開発浸透プロジェクトでは、現場担当者が負担を抱える“定型作業”に着目し、短期間で効果の出る自動化を実現しました。
私たちは、複雑なシステム導入よりも、現場が理解し、維持できるDX を重視しています。
大手製造業における知財管理のように「作業は細かいが重要度が高い」領域こそ、市民開発が力を発揮します。
お問い合わせ
工場経営DXやデジプロなど、弊社サービスに関するお問い合わせは
以下のフォームよりお願いいたします。
※別のタブが開きます
